55-7-5(ベルクソン代入2 5/25)
しばらく停止していた。
またゆっくり始めようと思う。
前回に引き続いて書いておきたいのは、ベルクソンのもうひとつの著作『物質と記憶』
についてである。この著書の「七版の序」において、ベルクソンはこんな名前を挙げてい
る。
「ピエール・ジャネ氏が神経症について行ったきわめて深い独創的な研究は(後略)」
むろん、このジャネはルーセルの「遺書」内にある三種のテクストのうち、自作の秘密
を明かしたテクスト、チェスに関してタルタコーバが書いたテクストと並んで“主治医と
してルーセルの症例を研究した”テクストのジャネ博士だろう。
ジャネを通して、ルーセルとベルクソンがつながっている可能性さえある。
少なくとも、“空間に投影された時間”がベルクソンの表現を借りたものであることは
ほぼ疑いえない事実なのではないか。
とすればやはり、それが純粋持続なき日常的な思考を揶揄するものであったという可能
性もまた強くなってくる。
ルーセルはジャネの診断とタルタコーバの称揚をふたつながら「遺書」に含めた。
作家が他人のテクストを「遺書」に入れるとき、そこになんらかの統一的な意図がない
とは考えにくい。
さて、こうして多岐にわたってしまう『55ノート』だが、ソシュールのアナグラムをき
ちんと説明する機会を逃していた。
もともと僕は「言語とチェス」の関連について考えたかったのだ。それがあれよあれよ
という間にデュシャンの「遺作」解読になり、ルーセルの「遺書」解読にまで至ってし
まったのである。
むろんそれはそれで考え続けていくのだが、次にソシュールのアナグラム研究の成果を
簡単に紹介しておくことにする。
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