55-3-8(デュシャンの兄と騎士)



 さらに想像をたくましくすれば、僧侶にくっついた騎士とデュシャン自身を結びつけること も可能だ。なぜなら、デュシャン三兄弟のうちの一人、夭折したレーモン・デュシャンこそ生 涯にわたってナイトにとらわれ続けた人物だからである。

 デュシャンの兄レーモンは彫刻家として活躍し、一九一八年に四十二歳でこの世を去った。 その力強い作品の中でこの上なく目立つのは一連の馬の連作である。当初、シリーズは「馬と 騎士」として制作された。一九一四年、この時点でレーモン・デュシャンはまさにナイトを芸 術化していたと言える。彼は運動する馬を数多くデッサンし、やがて大作である『馬』を発表 することになる。

 もう一人のレーモン。彼がデュシャンに与えた影響は小さくないだろう。亡くなったその人 物に後押しされた僧侶はまるで、のちにダダの法王と呼ばれるデュシャンその人である。レー モン・デュシャンはつまり、マルセルのセディーユのような存在であった。

 このデュシャンの兄弟を射程に入れると、やがてソシュールにもぶつかりかねない。セ ディーユが同じ文字の発音を変えてしまうように。

   



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